こんな日は家にまっすぐ帰ってバカ正直に飯をつくる気力なんかない。
まあいつものことだが。
と地下鉄の出口から家とは反対の方向に歩き出す。
中華屋でビールでも飲みながら本を読んでマッタリするか…
運悪く今日はカバンに何も入っていない。
なにか読む本を仕入れねば…
中華の店を通り過ぎ千駄木往来堂まで足を伸ばす。
「街の本屋の復権」を掲げる馴染みの店には、煌々と明かりが灯っていた。
ここまで来たら何か買わねば出られない。
店内をザラリと見回した後、ふと手にとって「孤独のグルメ」を買う。
ずいぶん懐かしい感じのする本だなあ。初出は94年か…
俺、なんでこのマンガを読んだことがあるんだろう?
油断の上の長居を回避し店を出る。
しかしまだ9時前だってのにやたら静かだ…
この町は人は多いが外食人口は少ないのだろう。
少し裏路地に入れば、そこかしこのスナック風の店から歓声がほそびやかに聞こえてくる。
中華の店は2軒ある。
一軒は昔からずっとある、
昔ながらの〜というような風情すらない、ありふれた定食屋のような店だ。かといってコギレイというわけでもない。
あともう1軒は最近出来た、上海小皿料理〜うんたらかんたらの洒落た感じの店だ。ただあまり客は入っていない。
2軒は隣り合っている。
ディナーセットAが1500円だったのと、青島ビールが650円なのを見て、小皿料理はあきらめ、定食屋の方に入る。こちらは青島ビール380円なのだ。
店に入ると自分と同じような家に帰っても飯を作ってくれるような人はいないのであろうサラリーマン風が2人、3人、…
まずはメイド風カッポーギを着た中国人の店員に青島ビールを頼む。
しかし…
昼飯に入った中華屋はなんだったなあ…
仕事場近くの店で、こことはまた違った、得体のしれないコキタナサを放つ店であり、
それでもどっかしら歴史のある風情は感じさせる店であった。
今の場所で働いてから2年弱、店自体に引き寄せられるものがまったくなく、前を通り過ぎるばかりだったのがついに意を決して入ってみたところ…
ランチだからといってなにかサービスやセットがあるわけでもない。
麻婆茄子定食850円は、ライスが皿に乗って出てきた。
メニューはやたら多いが、おそらく何を食べても同じ味がするだろう。
麻婆豆腐は、ナスを豆腐に変えただけのものだろう。当たり前かもしれないが、そういうことだ。一瞬でも迷って損をした。
ふっ…これが半蔵門の中華屋か…
おそらく何を食べても同じ味わいを食後の感想として持ちたいときに、ふたたびその暖簾をくぐることになるだろう。
今日のこの夕飯はそのリベンジだ。
青島ビールを飲みながらA1セット―スブタが出来るのを待つ。
くりぃむしちゅーって嫌いじゃないけど別に好きでもない。
3、4年前は名前は知ってても顔を見たこともなかった。
それが今では夜の9時過ぎに中華屋でテレビを見ながらビールを飲む日もありだ。
生活も変われば変わるものである。
「孤独のグルメ」に目を落とす。
個人業を営む主人公がさまざまな街で腹を空かし、その街にひっそりと佇む店と、そこに生きる人たちの空気に一瞬でも馴染み、時には立ち尽くしながら、
ガツガツとメシを食う…ただそれだけのマンガである。
スブタにはやや時間がかかったようだったが、あまり気にはならない。
ビールの無くなり具合を計算したのか、いや、この店にそんな気配りはないだろう。あっても無用だ。
セットにはライス・スープ・お新香が付く。
ライスはきちんと中ぐらいのどんぶりに山盛りになって出てきた。正解だ。
“ライス”ってのは日本語でどんぶりご飯のことをいうのだ。
スブタは酢豚の味がした。格別美味くも無いけど哀しい気分にはならない。
かといってそれだけで幸せになるほど俺は落ちぶれちゃいない。
パイナップルは入っていなかった。文句は無い。
そもそも俺はスブタなんて好きじゃないのだ。
酸っぱいのはキライだ。
ただ厚い肉が食いたかっただけなのだ。
ひたすら肉と野菜を交互に食していく。
どんぶりご飯を喰らいながら、「孤独のグルメ」を読みながら。
食べ終わって会計をしようとレジに向かうと、横のテーブルには普段着の若い女子が3人…この店の子と友達だろうか。
まあいい深追いすることもない、世の中にはさまざまな人生がある。
会計の1080円を払って店を出ると、
夜風がコートのスキマを駆け抜けていった。
ひと気もまばら、相変わらず不忍通りは車通りが少ない。
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少し時間が空いてしまいましたが。 